今こそ患者リクルートメント戦略を再評価し、効果の低い取り組みを見直すとともに、患者登録の最適化と登録期間の短縮を実現する戦略やテクノロジーを活用する時です。
肥満症の臨床試験を取り巻く環境は、これまでになく競争が激化し、また複雑化しています。GLP-1関連試験の急増に加え、一見すると広く適格性を満たしているように見える患者集団であっても、スクリーニング段階で不適格となる割合が高いため、経験豊富なスポンサー企業であっても患者登録期間の短縮が大きな課題となっています。今問うべきなのは、「リクルートメント戦略を見直すべきかどうか」ではなく、「どこから着手すべきか」です。
まずは、以下の質問に率直に答えてみてください。
治験実施施設が、質の低い患者紹介への対応に追われていませんか?肥満症試験で患者募集目標を達成できていませんか? 十分な成果が得られていないにもかかわらず、同じ施設に繰り返し依存していませんか?スクリーニング不適格例の多さに悩まされていませんか?臨床試験が計画どおり進まず、立て直し対応に追われることが少なくありませんか?
これらのいずれかに当てはまるのであれば、今こそ患者リクルートメント戦略を見直すべき時です。成果につながっていない取り組みを整理し、患者登録の最適化と登録期間の短縮を実現するための戦略やテクノロジーを積極的に活用しましょう。
患者リクルートメントを初期段階から組み込む
患者募集が遅れ始めてから対応するのではなく、先手を打ち、臨床開発計画の一部として患者リクルートメントを組み込むことが重要です。プロトコル設計の段階で、組み入れ基準・除外基準(I/E Criteria)を改めて見直し、それらが過度に厳格になっていないかを確認しましょう。
真に患者中心の開発を実現するためには、患者が試験にアクセスしやすいかという観点から、スポンサー企業がI/E基準を再評価する必要があります。こうした基準は評価項目(エンドポイント)の達成を容易にする一方で、患者が試験参加の適格性を満たしにくくなる要因にもなり得ます。
重要なのは、I/E基準は決して不変ではないということです。安全性やデータの完全性を損なうことなく、また規制上のリスクを増やすことなく、適格基準をより柔軟にできる余地がないか検討してみましょう。また、基準全体を大幅に見直す必要はありません。まずは一つの要素から調整を始め、患者リクルートメントの改善につながるかどうかを評価することが有効です。
適切な施設選定に注力する
施設選定は、患者リクルートメント戦略において重要な要素です。慣れ親しんでいるという理由だけで同じ施設と契約し続けることは、期待した成果につながらない可能性があります。重要なのは、新たな施設との協業にも積極的な姿勢を持つことです。
過去の実績データを活用すれば、各施設や治験責任医師のパフォーマンスを客観的に把握できます。その結果、十分な情報に基づいた意思決定が可能となり、根拠のない推測に頼ることなく、より適切な施設選定を行うことができます。
重要なのは「数」ではなく「質」
患者登録を増やすために、できるだけ多くの候補者にアプローチする戦略は魅力的に見えるかもしれません。しかし、その方法では適格性を満たさない患者が、すでに負担の大きい施設へ事前スクリーニングのために紹介されてしまうリスクがあります。これは特に肥満症試験で顕著です。肥満症試験は多くの応募者を集めやすい一方で、その後さらに厳格な適格性評価が必要となるためです。
そこで重要になるのが**精密患者リクルートメント(Precision Patient Recruitment)**です。精密患者リクルートメントは、希少疾患のように特に厳しい組み入れ基準・除外基準(I/E Criteria)を持つ試験だけに適用されるものではありません。あらゆる臨床試験、治療領域、疾患・症状に活用できる戦略です。では、精密患者リクルートメントとは具体的に何でしょうか。
これは、医療・処方請求データ、患者属性データ、電子カルテ(EHR)などのリアルワールドデータを活用し、特定の試験に適した患者を特定する手法です。これにより、プロトコルの要件に適合した関連性の高い患者を効率的に抽出し、フォローアップにつなげることができます。
医療従事者(HCP)をリクルートメントのパートナーにする
理想的には、医療従事者(HCP)は患者リクルートメントの障害ではなく、強力な支援者となるべき存在です。しかしそのためには、まず医療従事者に臨床試験の存在を認知してもらう必要があります。試験について理解して初めて、担当患者が特定の試験の組み入れ基準・除外基準を満たすかどうかを判断できるようになります。
CISCRP(Center for Information and Study on Clinical Research Participation)の2025 Perceptions & Insights Studyによると、回答者の51%が「臨床試験について医師から情報を得たい」と回答している一方で、実際に医師から臨床試験を紹介された経験がある人は17%にとどまっています。また、サイトラインが実施した医師向け調査では、臨床試験の検索や患者紹介において医師がさまざまな課題に直面していることが明らかになりました。試験情報の質について尋ねたところ、回答者の約69%が「情報に問題があるため、本来であれば紹介していた臨床試験への患者紹介を断念したことが少なくとも時々ある」と回答しています。
さらに、約半数の医師は「臨床試験の検索をしても患者紹介につながることはほとんどない」と回答しており、それ以外の多くの回答者も「患者紹介につながるのは約半数のケースにとどまる」と答えています。しかし、医療従事者に試験を認知してもらうだけでは十分ではありません。スポンサー企業は、医療従事者が安心して患者を紹介できるよう、明確かつ正確で、十分な情報を提供する必要があります。
患者との信頼関係を構築する
患者は、信頼できると感じるスポンサー企業が実施する臨床試験に参加する可能性が高くなります。そのため、患者教育は試験開始前から取り組むべき重要な活動です。臨床試験全般に関する教育コンテンツや、対象疾患に関する情報を継続的に提供することで、スポンサー企業は患者との信頼関係を築くことができます。一方で、患者募集を開始してから初めて患者コミュニティと接触する場合、その取り組みは表面的または場当たり的に受け取られる可能性があります。
また、患者とのコミュニケーションでは、「いつ伝えるか」と同様に、「どのように伝えるか」も極めて重要です。患者を不必要に不安にさせたり混乱させたりしないよう、患者にとって分かりやすい表現を用いる必要があります。
特に肥満症試験では、言葉の選び方に十分な配慮が求められます。意図せず応募候補者を不快にさせる表現を避けることが重要です。患者とのコミュニケーションは、臨床試験の前後だけでなく、試験期間中も継続されるべきです。患者の参加と貢献に敬意を示すためにも、スポンサー企業は試験結果を共有する必要があります。これは単なる倫理的責任ではなく、米国やEUでは法的に求められている義務でもあります。
さらに、GLP-1製剤については新たな有用性が次々と報告されており、ポジティブな口コミはスポンサー企業にとって大きな追い風となり得ます。これらの治療薬は肥満症だけでなく、心血管疾患、慢性腎臓病、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)などの治療にも活用されつつあります。
ターゲットを絞ったDTP(Direct-to-Patient)アプローチを選択する
スポンサー企業が慣れ親しんだ施設だけに依存することが望ましくないのと同様に、従来型のDTP(Direct-to-Patient)施策に固執することも短絡的であり、多くの場合、十分な成果につながりません。オンライン広告などの従来手法は広範囲にアプローチできる一方で、適格性の低い候補者を大量に生み出し、結果として施設に大きな負担をかけてしまいます。
優れたスポンサー企業は、組み入れ基準・除外基準(I/E Criteria)を制約ではなく、プロトコルに適合する患者を特定するための重要な指標として捉えています。そのためには、適格な患者を特定するだけでなく、同意を得た患者に対して信頼性の高い第三者を介したアウトリーチを実施し、患者との接点を構築できるリクルートメントパートナーを選ぶことが重要です。
AI含むテクノロジーを積極的に活用する
スポンサー企業は、AIを活用したテクノロジーを恐れるのではなく、積極的に取り入れるべきです。もちろん、すべてのAIが同じ品質や能力を持つわけではありません。言うまでもありませんが、AIの活用においては常に人間が主導権を持つことが前提です。
患者リクルートメントにおけるAIの目的は、他のAI活用と同様に、プロセスの効率化です。AIは膨大なデータを統合・分析し、
- より適切なプロトコル設計
- 最適な施設および治験責任医師の選定
- 特定の試験に適合する患者の特定 を支援することができます。
データの力を過小評価しない
これまで施設、治験責任医師、患者データについて触れてきましたが、臨床試験データも忘れてはなりません。同様の試験から学ぶことで、何が成功し、何が成功しなかったのかを把握できるため、ゼロから試行錯誤を繰り返す必要はありません。
また、利用しているデータソースの質や、それらを管理・分析するプラットフォームについても改めて見直すことが重要です。不正確、不完全、あるいは古いデータは、臨床開発計画や患者リクルートメント活動に悪影響を及ぼします。さらに、複数のデータセットを横断的に連携できることも重要です。データの統合によって、最適な施設や治験責任医師の選定、さらには試験に適した患者の特定が可能になります。
外部パートナーを活用することも選択肢
大手製薬企業であっても小規模バイオテクノロジー企業であっても、外部の専門家の支援を受けることをためらう必要はありません。少なくとも、第三者ならではの客観的な視点を得られるため、自社内では検討されていなかった改善策や新たな提案につながる可能性があります。
リクルートメントパートナーは単なるベンダーではなく、真のパートナーとして捉えるべきです。優れたパートナーは自社のリクルートメントチームの延長線上で活動し、耳障りの良いことを伝えるだけではありません。本当に価値のあるパートナーは、患者登録を促進するための具体的かつ実行可能なソリューションを提供してくれます。
柔軟に方向転換できるよう備える
組み入れ基準・除外基準(I/E Criteria)の見直しが必要になる場合があるように、患者リクルートメント戦略そのものを変更する必要が生じることもあります。軌道修正するのに遅すぎることはありません。
そのためには、リクルートメント活動の進捗を継続的にモニタリングすることが重要です。そして目標登録数を達成した後には振り返り(レトロスペクティブ)を実施し、得られた学びを今後の臨床試験に活かしましょう。
サイトライン PatientMatchとそのPatient Outreach機能が、どのように試験に適した患者の特定とアプローチを支援するのかをご覧ください。
肥満症試験はなぜ患者リクルートが特に難しいのでしょうか?
肥満症試験を取り巻く環境は、競争が非常に激化しています。また、対象となる患者集団は一見すると幅広く適格性を満たしているように見えるものの、実際にはスクリーニングで不適格となる割合が比較的高いという課題があります。その背景の一つとして、肥満症試験には多くの応募者が集まる一方で、その後さらに詳細な適格性評価が必要になることが挙げられます。その結果、試験施設には適格性を満たさない患者紹介が集中し、患者登録業務への負担が増大するとともに、登録スケジュールの遅延につながる可能性があります。
精密患者リクルートメントとは何ですか?また、どのような効果がありますか?
精密患者リクルートメント(Precision Patient Recruitment)とは、医療・薬剤請求データ、電子カルテ(EHR)、患者属性データなどのリアルワールドデータを活用し、試験プロトコルに適合する患者を特定するリクルートメント戦略です。幅広く候補者を集める従来型の手法とは異なり、このアプローチでは試験要件に合致する可能性の高い患者を特定し、事前に適格性を確認した上で施設へ紹介することができます。そのため、施設の負担軽減や患者登録の効率化につながります。
患者へのエンゲージメントと信頼構築は、いつ始めるべきでしょうか?
患者との関係構築は、臨床試験開始よりもかなり前の段階から始めるべきです。患者募集を開始してから初めて患者との接点を持つ場合、取り組みが表面的または場当たり的に受け取られてしまう可能性があります。一方で、臨床試験に関する一般的な情報や、肥満症など対象疾患に関する教育コンテンツを早期から提供することで、患者との信頼関係を構築しやすくなります。こうした継続的な患者教育とコミュニケーションは、患者の理解を深めるだけでなく、臨床試験への参加意欲や登録率の向上にもつながります。


