米国食品医薬品局(FDA)は2025年10月、重篤または生命を脅かす疾患を抱える患者が、既存の標準治療が効果を示さない場合に治験薬へアクセスできる制度「拡大アクセス(Expanded Access)」に関するガイダンス文書『Expanded Access to Investigational Drugs for Treatment Use: Questions and Answers(改訂第1版)』を更新しました。 今回の改訂では、2017年版のガイダンスを置き換える形で、21世紀治療法(21st Century Cures Act)およびFDA再認可法(FDARA)の規定を統合。製薬企業(スポンサー)、治験責任医師、規制当局が拡大アクセスプログラムに関与する際の期待事項を明確にする、統一的な枠組みが提示されています。 この制度は、患者の治療機会を広げると同時に、関係者が制度を適切に運用できるよう支援することを目的としています。
The updated guidance unifies past requirements and emerging expectations to provide clarity for regulators, consistency for sponsors, and transparency for patients.
規制および手続きに関する最新情報
今回のガイダンスでは、治療目的で治験薬を使用するための3つの申請ルートが改めて確認され、それぞれの提出・審査プロセスについて説明されています:
- 個別患者向け(緊急使用を含む)
- 中規模の患者集団向け
- より広範な使用を目的とした治験薬申請(IND)/プロトコル
これらのアクセスルートの定義に加え、倫理審査委員会(IRB)による審査の期待事項や、緊急使用時の通知手続きについても明確化されています。また、患者との一貫性ある明確なコミュニケーションを支援するために、インフォームド・コンセントのテンプレートも新たに盛り込まれています。
スポンサーの責任とタイミングに関する明確化
FDAは、21世紀治療法(21st Century Cures Act)および2017年のFDA再認可法(FDARA)に基づく法的義務を改めて強調しています(米国食品・医薬品・化粧品法 §561A)。 重篤または生命を脅かす疾患に対する治験薬を製造・供給する企業は、拡大アクセスに関する方針を、企業のウェブサイトなどの公的なプラットフォーム上で公開する必要があります。方針には以下の内容を含めることが求められます:
- リクエストの提出方法と審査プロセス
- 応答までの目安となる期間
- 関連するClinicalTrials.govの登録情報へのリンク(該当する場合
これらの方針は、第II相または第III相試験の開始前、または迅速承認、ブレークスルー治療、再生医療指定のいずれかを受けてから15日以内に公開されなければなりません。 これらの要件は法律に基づくものですが、今回のガイダンスでは、スポンサーがこれらの義務を確実に果たし、規制対応やGCP(治験実施基準)における一貫性を保つための実践的な例も提示されています。
透明性と情報の公開性の向上
今回のガイダンスでは、拡大アクセスに関する方針や記録が、より広範な透明性の枠組みとどのように連携しているかが強調されています。患者、医師、規制当局が治療目的での治験薬利用の選択肢を把握しやすくするため、以下のような情報公開の仕組みが整備されています:
- スポンサーによる公開方針:アクセス申請の受付方法、審査プロセス、応答までの期間などを記載した方針を、企業ウェブサイトなどで公開
- ClinicalTrials.gov: 治験薬の登録情報に、拡大アクセスの可否を明記
- Reagan-Udall財団のExpanded Access Navigator: 企業の方針や登録情報を一元的に検索できるディレクトリとして提供
これらの情報チャネルを通じて、関係者が利用可能な治療オプションを容易に特定できるようになり、公開情報の一貫性とアクセス性が確保されます。
安全性報告と監督体制
拡大アクセスに基づく治験薬申請(IND)およびプロトコルは、引き続き安全性報告(§312.32)および年次報告(§312.33)の対象となります。 FDAは、拡大アクセスによって得られたデータが承認判断に影響を与えることは稀であるとしながらも、これらの情報が市販後の安全性評価に貢献する可能性があることを指摘しています。
情報開示・臨床担当者への示唆
2025年版のFDAガイダンスは、情報開示や規制対応を担うチームにとって、既存の法令をより実務的な観点から明確化する内容となっています。特に、以下の点がコンプライアンスの重要な要素として強調されています:
- 拡大アクセス方針の公表
- 関連情報の相互参照(例:ClinicalTrials.govとのリンク)
- 患者向け情報の透明性の確保
また、臨床部門や患者エンゲージメントを担うリーダーに対しては、すべての治療目的使用の場面において、倫理、コミュニケーション、データ管理に関する一貫した期待事項を提示しています。
ガイダンス原文はこちら:Expanded Access to Investigational Drugs for Treatment Use: Questions and Answers (Revision 1, October 2025)


